東京にて
富山本部校高校部
若い頃、東京で暮らしていた頃。環状8号線の歩道橋の上で、とある和装姿の女性に呼び止められた。
「ここをまっすぐ行けば、不動尊に行かれますか?」
「行かれますか?」というのが、「行くことができますか?」という意味であることに気づいたのは、ほんの少し時間が経ってからのことだった。
妙な間があって後、はっと我に返った僕はようやく行く先を指差して、「はい、あの交差点のあたりです」と答えた。
すぐに返事ができなかったのは、不動尊の場所がわからなかったわけではなく、「れる」という助動詞の意味に気づくのに手間取ってしまったからだ。
可能の意味を発する場合、可能動詞や「ら」抜き言葉を使うのが当たり前の世の中で、こんなに美しく助動詞「れる」を可能のニュアンスで話す人に僕は初めて出会った。しかも、日傘をさした、妙齢の、和装姿の女性であったから、なおさら僕は「美しいなあ」と思ってしまった。「ありがとうございます」と言って、歩道橋を、足元を気にしながら下りていく女性の後ろ姿を、僕はしばらくの間、ぼんやりと見送らずにはいられなかった。
歩道橋を上がってくる他の通行人が、僕を不思議な目でみていたのは言うまでもない。
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