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偉人の遺した名言とその生涯②『スパルタ王レオニダス1世(3)』

富山本部校小学部

かかってこい!

相手になってやる!!

 

これは、若いころ筆者が言うのも憚られる程の時間を捧げた戦略シミュレーションゲーム『Hearts of Iron2』における名文句の一つである。

この選択肢を選ぶと、ゲーム内で1939年当時人口370万人の北欧の小国フィンランドと人口2億のソ連との間で史実通りの戦争(冬戦争~継続戦争)が勃発する。人口比1:55という絶望的な差を跳ね除けフィンランドは独立を維持するのだが、果たして1:162の兵力差で戦ったスパルタとどちらがマシだっただろうか。

 

 

前499年の「イオニアの反乱」に端を発したギリシア世界へのアケメネス朝ペルシアの進出に際し、トラキア(東ブルガリア)にペルシアが侵入したことにより、ギリシア諸都市連合はこれを迎撃することとなった。

 

しかし、ギリシア諸都市は折しも祭りとの兼ね合い(「宗教上の理由」と言い換えてもよいかと)により全力での迎撃は難しく、結果、レオニダス1世は古くから用いられた幹線道路で、周囲を海と山に囲まれ、最も狭い所で道幅15mという侵攻側からすれば悪条件でしかない地、テルモピュライにてペルシアの大軍を迎え撃った。

 

「孫子 地形篇」に曰く、

『隘き形には、我先に之に居らば、必ず之を盈たして以て敵を待て。若し敵先に之に居り、盈つれば而ち従うこと勿れ。盈たざれば而ち之に従え。(谷間の道幅が狭まったような土地では、こちらが先にそこを占拠していれば、自軍でその場を満たして敵軍が来るのを待ち受けるようにする。もし、敵軍が先にその場を占拠し、兵員で埋め尽くしているようであれば、そこに進んではならない。敵が先にいてもまだ兵力を密集させていなければ攻めても良い。)』

 

このような地形を専門用語で「隘路(あいろ)」といい、迎撃及び奇襲に最適の地形と孫子は説いていた。

 

テルモピュライはまさにこの「隘路」であり、ギリシア諸都市連合はまさに少数で以て多数を相手取るにはセオリー通りともいえる戦術でペルシアの大軍を迎え撃ったのである。

 

ここまで孫子だ隘路だと小難しい話をしてきたが、状況は以下の通りだ。

 

容量2Lのペットボトルに満たされた水を思い浮かべてほしい。そしてキャップが下になるようにひっくり返して持ってみよう。

2Lの水がペルシア軍、キャップがギリシア軍、ペットボトルの“首”に当たる細まった部分がテルモピュライだ。

ペルシア軍はあなたの足元を水浸しにしたいし、ペットボトルを持つあなた(=ギリシア軍)はそれが嫌なので固くキャップを締めたのだ。

そんなキャップ(というか隘路)に陣取るギリシア軍の強さにもう1つ理由をつけるとすれば、それは「歴戦の重装歩兵によるファランクス」だろう。

 

「ファランクス」とは、

「右手に2メートル半の長槍、左手に直径1メートル程度の円盾を持った屈強な男たちが形作る1辺5人の正方形型陣形の集合体」

である。盾を前方に構えての押し合いや長槍で一斉に突いたり上から叩き付けたりとった形で攻撃した。

 

この陣形は突破力と防御力に優れ、以降ローマ帝国の時代でもその姿を変えつつ運用される程度には優秀な陣形・戦術だったようである。戦場の主役が銃と大砲に代わってからもこの正方形型の陣形は「方陣」として生き残った。正方形の中央に大砲を置き、その四方を銃兵の壁で囲むことで高い防御力を発揮したのだ(その代わり突破力というか機動力はゼロになったが)。

以上2点の“利”を得たギリシア連合軍は,ここから驚異的な粘りを見せる。苦戦を強いられたペルシア軍は,正面突破以外の作戦を採ることを余儀なくされたのである…

 

緒戦において、隘路にて強力なファランクスに跳ね返されたペルシア軍は一計を案じる。彼らの目的は「キャップを吹き飛ばすこと」ではなく、「あなたの足元を水浸しにすること」なのだ。そのため、ペルシア軍は「ペットボトルの首部分に思いきり釘をぶっ刺す」ことにした。つまり、迂回路を用いてギリシア軍の背後に回り込もうとしたのである。

 

このとき、迂回路を移動中のペルシア軍部隊の中に最精鋭として知られる「不死隊」をみたギリシア軍の大半は撤退を主張し、なんなら本当に撤退してしまった。

 

「不死隊」第三の目や左腕に封じられた邪悪な力がうずき出しそうな素敵なネーミングだが、「顔を隠した定数1万の屈強な兵士達が倒しても倒しても減らない無敵の軍(実際は戦死者の分だけ即座に補充しているため減ったように見えないだけ)」であることからその名がついたとか。実際の強さもそうだが、何より威圧感は抜群、びびって逃げ出すのもやむなしだろう。

 

かくして、テルモピュライに残ったスパルタ重装歩兵300をはじめとする1400は、迂回に成功したペルシア軍に包囲されつつあった。

 

クセルクセス1世は降伏を呼びかけるもレオニダス1世はこれを拒否、ペルシア軍全軍による攻撃が始まった。

 

当初は最寄りの街道沿いの城壁に拠って戦っていたレオニダス1世だが、ペルシア軍の進撃を食い止めるべく城壁と隘路を捨て広場に進出、そこで激戦を繰り広げる。驚くべきことにこの兵力差にもかかわらず一時はペルシア軍を押し返したが、この戦いの最中、レオニダス1世は戦死してしまう。

 

王を失ったスパルタ兵はその遺体を渡すまいと奮闘、4度に渡りペルシア軍の攻勢を撃退するが、ここで迂回を完了した「不死隊」が攻撃を開始、追い詰められたギリシア連合軍は小高い丘に陣取り最後の抵抗を試みる。

 

槍が折れれば剣で、剣が折れれば拳で、拳を失っても噛みついて抵抗する連合軍に恐怖したペルシア軍は、最後は遠距離から矢を射かけて攻撃し、連合軍を全滅させた。

 

ギリシア連合軍がスパルタ重装歩兵300名を含む1000名を失ったこの日、ペルシア軍の戦死者は2万にのぼったという。

 

この後、「レオニダスの敵を討て」との神託を受け、スパルタは1万の重装歩兵を動員。30万のペルシア軍を撃破してその復讐を果たしたのである。

最初からやってりゃレオニダス死なずに済んだじゃんと思ったのは私だけだろうか…

 

 

本来、包囲される側というのはその士気を高く保つのが非常に難しい。その中で士気を高く保ち、自らは戦死しながらも自軍を最後まで抵抗させたレオニダス1世は、ペルシア軍による降伏の勧めに対してこう返したという。

 

「Molon labe(来たりて取れ)!!」

 

……平和極まる現代日本において、ここまで紹介してきたレオニダス1世とスパルタ兵のような状況に陥ることは困難である。しかし、学業であれ、仕事であれ、人間関係であれ、長く生きていれば何かしらで「追いつめられる状況」を体験することはあるだろう。そういう時は、ある種の開き直りと自分自身への鼓舞の意味を込め「来たりて取れ!!」なり「やれるものならやってみろ!!」なり叫んでみると、案外勇気とやる気が湧いてくるのかもしれない。

 

 

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