花火の影をただただ見ていた
富山本部校高校部
何年前のことだったか、夏期講習期間中、その日の最終コマの授業。
演習中も解説中も、非常に集中力の高い受験生がそろうクラスだった。
やにわにドーン、ドーンと大きな音が始まった。夜8時前の頃合いだった。
私だけでなく、誰もが皆顔を上げて、そわそわする様子。
あのすばらしき集中力はどこへやら、である。
神通川の花火が今始まったのだ。
教室は駅前中央通りに面している。神通川は教壇に立つ私の背後遠くである。
誰もが皆あきらめるような表情をしたその瞬間、ふと気づいた。
向いのビルの窓に、尺玉の大輪が見事に映し出されていたのだ。
「あっ花火…」とつぶやいた私の声に促されて、生徒たちは皆振り返る。
あっ、花火…。
そこから約30分の間は、教室の明かりを消して、
きわめて間接的でありながら、それでも案外興趣のある花火の観賞会である。
誰もが次の尺玉が上がるのを待ちわびて、ただただ黙って向かいのビルの窓を見ていた。
「共感」である。
この30分の講習料金は?っていう、世知辛い天の声がかすかに耳元をよぎったが、
これも国語の授業の一環だろうと、こじつけることにした。(ご容赦ください…)
