桃太郎
富山本部校高校部
桃太郎が鬼ヶ島征伐を思い立ったのは、お爺さんお婆さんのように
山や川に仕事に出るのがいやだったからである。
またお爺さんお婆さんの方も、腕白な桃太郎を持て余し、
むしろ早く追い出したくて、黍団子まで持たせて体よく旅に出したのである。
さて当の鬼ヶ島であるが、ここは極楽鳥がさえずる美しい天然の楽土であり、
そんな島で生まれ育った鬼たちは、当然平和を愛する者たちであった。
そこに、犬猿雉を従えた桃太郎が突如やって来て、
罪もない鬼の命を次々奪っていったのである。(その上宝物まで略奪して…)
捕らえられた鬼の長(おさ)が、
「鬼が島の鬼はあなた様にどういう無礼を致したのやら、とんと合点が参りませぬ」
とその理由を問うが、桃太郎は、
「日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を召し抱えた故、鬼が島に征伐に来たのだ」
と、理由にもならない理由を語ったのだった。
芥川龍之介の小説『桃太郎』の要約である。
小説は最後にこう言う。
「ああ、未来の天才はそれら(=桃)の実の中に何人とも知らずに眠っている。……」
「天才」には、冷酷で独善的な存在に対する皮肉が込められている。
芥川は来たる未来に、いったいどんな人物を想定していたのだろうか?
スターリン、ヒトラー、それとも…。
