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漱石を売る

富山本部校高校部

読書の秋です。本を1冊紹介しましょう。
出久根達郎(でくねたつろう)『漱石を売る』(文春文庫)。古本屋でありながら直木賞作家となった筆者のエッセイ集です。

古本屋を創業してからいよいよ15万冊目の本が売れようかという時が来た。10万冊目の時は、とある作家の全集が4万2千円で売れた(全集はまとめて1点で数えるそうだ)。客に記念日だということを告げると、おつりを御祝い金代わりにくれ、裏表紙に署名とともに一筆書いてくれと言われた。こちらから記念品を渡すことは考えもしなかった。だから今回は、記念品として広辞苑をプレゼントすることにした。
15万冊目の客は不意に訪れた。頭に黄色いタオルを巻いた地下足袋姿の酔った男が、百円均一のコーナーから1冊本を手に取り、「これをくれ」と言ってきた。
百円均一の本だから無効だと言うわけにもいかず、15万冊目記念ですと広辞苑を渡すと、男は「これは俺のものだな」と再三確認した挙句、「飲み代にしたいから今すぐこれを売る」と言ってきた。古本屋である以上これも断るわけにはいかず、いくらかの金を支払った。

その日の閉店後、表の呼鈴をしつこく鳴らす者がいるから出て見ると、昼間の地下足袋男だった。男は大袋を4つも抱え、「もらった金でパチンコ打ったら、当たった、当たった」と、袋を1つ筆者に渡した。「あんたが15万円貯金したとかいいうお祝いだ」と言って去っていった。袋の中身はサバの水煮缶30個だった。

自身の経営する古本屋にまつわるエピソードを集めたエッセイ集です。屈託を一気に発散できるほどの感動はありませんが、ちょっとホッとできる1冊です。

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